2011/09/16

OpenCVの画素値アクセスについて

"Fire King" by A Continuous Lean
何度も何度も繰り返されている議題ですが、今回は画像処理に良くある『全画素を変換する』という処理のパフォーマンスについて考察します。
あなたはOpenCVのcv::Mat_<T>を使って、全ての画素値をある関数funcで変換するという処理を行いたいとします。それで、たぶんなんですけど、普通に何も考えず組むとしたらこんな感じのコードになると思います:
for(int y=0; y<src.rows; ++y) {
    for(int x=0; x<src.cols; ++x) {
        dst(y, x) = func(src(y, x));
    }
}
なんの変哲もない普通のループです。このコードは普通に動きます。おわり。ちゃんちゃん。

…そういきたいのですが、パフォーマンスを気にする方々はここでいろいろとした疑問が沸き起こってくるわけです。それじゃあどこが悪いのか。1つずつ疑問点を上げ、その上で上記のコードがある程度の合理性を持っているコードであることを示していきます。

疑問1: 関数呼び出しを行っているからその分遅い?
src(y, x)という処理は結局cv::Mat<T>::operator()という関数を呼び出していることに相当します。なので、関数呼び出しを数十万のピクセルに対して行っているため、関数呼び出しにかかるコストが無視できないレベルで発生していくのではないか??

回答: 遅くならない
OpenCVのcv::Mat_<T>::operator()はインライン展開されます。なので、関数の呼び出しに対して発生する速度的なコストは発生しません。安心して使いましょう。

疑問2: 掛け算を余計に行なっているために遅い?
結局cv::Mat_<T>::operator()の行っていることはコードに直すとこんな感じです。
src(y, x) == ((T*)(src.data + src.step.p[0]*y))[x]
でも、この項をよく見てみると、xのループに対してyの値は固定されているため、第二項の計算は正直不要でしょう。なのに掛け算の計算でコストが余分にかかってしまうため、速度が遅くなるのでは??

回答: 遅くなるけどそんなに問題じゃない
確かに遅くなりますが、そこまで問題となる箇所ではありません。時代は3GHzに突入しているのです。整数の掛け算にかかるコストなんてたかが知れています。

そんなところよりも、別の箇所を改善したほうが大抵の場合劇的に向上します。仮に、funcの中にstd::expstd::logが含まれていたとすると…
dst(y, x) = std::exp(-(src(y, x) - mu)*(src(y, x) - mu)); // ぐぎゃー
dst(y, x) = -src(y, x)*std::log(src(y, x)); // おもいー
…それだけで大分重くなってしまいます。sqrt, sin, cosはまだ我慢できるにしても(それでも掛け算よりは結構重い)、指数、対数関数は普通に使うとかなり重いんです。CV系統などの精度を求めないような計算でしたら、スプライン関数などの近似式に置き換えることを検討しましょう。

at<T>(), operator()は範囲チェックを行ってくれる
昔のOpenCVにはat<T>()と同じような処理をしてくれるCV_IMAGE_ELEMマクロなんて言うものもありましたが、これはもう時代遅れの代物です。なぜなら、cv::Matat<T>(), cv::Mat_<T>operator()は与えられたx, y座標が範囲内のものであるかどうか、きちんとチェックを行ってくれるからです。範囲外である場合には警告を送ってくれます。そういった意味でもCV_IMAGE_ELEMよりatoperator()を利用していくべきでしょう。

余計な範囲チェックを行っているために遅くならないのか?』という疑問もあるかもしれませんが、この範囲チェックはReleaseモードで消去されます。なので実際の動作には全く影響されないのです。

cv::Mat::at<T>(), cv::Mat_<T>::operator()は早い
at<T>(), operator()はきちんと考えられているメンバ関数です。ポインタを用いてがりがり書いたコードよりは少し遅いかもしれませんが、この遅さは全体のアルゴリズムに影響するような遅さではありません。ほっと胸を撫で下ろし、安心して使いましょう。

でもやっぱり速度が気になる
とはいっても、きちんと書かれていないという神経質な方もいるかもしれません。at<T>()なんて負けた気がして使いたくない……その場合のコードは大体以下のようになります。
for(int y=0; y<src.rows; ++y) {
    uchar* src_ptr = src.ptr<uchar>(y);
    uchar* dst_ptr = dst.ptr<uchar>(y);
    for(int x=0; x<src.cols; ++x) {
        dst_ptr[x] = func(src_ptr[x]);
    }
}
これだけじゃあ高速化されたといっても微々たるものなので、せっかくですからOpenMPによる並列化を行ってみましょう。さらにassertでサイズが合っているかチェックを行うようにして…そうすると最終的なループはこんな感じになります。
assert(src.size == dst.size);
#pragma omp parallel for
for(int y=0; y<src.rows; ++y) {
    uchar* src_ptr = src.ptr<uchar>(y);
    uchar* dst_ptr = dst.ptr<uchar>(y);
    for(int x=0; x<src.cols; ++x) {
        dst_ptr[x] = func(src_ptr[x]);
    }
}
大分行数が増えてしまいました。ただ自分がやりたいことは全画素に対してfuncを適用させたい、ただそれだけなのに、ここまで行数を書く必要があるのです。しかもぱっと見で何をしたいのか良く分からない。面倒ですし分かりにくい。

ここで、C++を少しかじったことのある人でしたら、ユニタリー関数を適用させる表式のアルゴリズム関数を適用すればいいんじゃね?といった考えに至るのは自然な発想でしょう。こんなふうに:
template<typename SrcType,
         typename DstType,
         typename UnaryFunction>
void transform_image(const cv::Mat_<SrcType>& src,
                     cv::Mat_<DstType>& dst,
                     UnaryFunction unary_op) {
    assert(src.size == dst.size);
    #pragma omp parallel for
    for(int y=0; y<src.rows; ++y) {
        // equivalent to ptr<T>(y)
        const SrcType* src_ptr = src[y];
        DstType* dst_ptr = dst[y];
        for(int x=0; x<src.cols; ++x) {
            dst_ptr[x] = unary_op(src_ptr[x]);
        }
    }
}
上の形の式をヘッダファイルあたりに定義してやれば、後は以下のようなラムダ式を利用して書くだけで自動的に最適なループ処理を行ってくれます:
transform_image(src, dst, [](uchar x) -> uchar {
    return cv::saturate_cast<uchar>(x*2);
});
この表式ですと、どんな変数がなんの変数に影響を及ぼすのか、全画素に対してどのような処理を行うのか一目瞭然です。また、引数に渡すunary_opはコンパイラの最適化処理によって自動的にインライン展開されるため速度的なオーバーヘッドはありませんし、OpenMPによる並列化も行ってくれます。また任意の関数オブジェクトを作用させることができるので、非常に使い回しの効く関数となっています。

画素云々について言及している方はこれまで数多く見かけましたが、このような画像に特化したアルゴリズム関数について言及している方は、何故か誰もいないというのが現状です。なのでまぁ自分用にざっくり書いているコードなのでいろいろと不備はありますけど、上記のようなアルゴリズムを詰め合わせた補助ライブラリを近いうちに上げていきたいと思います。

追記(2011/09/24): 記事のとおり、補助ライブラリであるcvutilgithubに上げました。詳細は別記事『OpenCVアルゴリズムを高速に記述できる補助ライブラリcvutilを公開します』を参照してください。

補足
『イテレータを使って標準のアルゴリズムを適用すればいいだけなのでは?』と思う方もいるかもしれません。つまりこんな感じですね:
std::transform(src.begin(), src.end(), dst.begin(), [](uchar x) -> uchar {
    return cv::saturate_cast<uchar>(x*2);
});
確かにこの式でも動くんですけど、速度は遅いです。なぜならこのイテレータの指しているデータは、メモリ上に連続していないからです。言い換えると、任意の自然数Nに対して『&(*(iter + N)) == &(*iter) + N』であることが保障されていないため、きちんと対象のデータを指し示すように補正しなければならない。その補正処理に余分な負担がかかって遅くなってしまう。ただ、もしメモリ上に連続であるならば直接ポインタをイテレータとして入れてやることで、(きちんと動作する保障はないですが)高速に動作してくれるでしょう。並列化はされていませんけれど。

また、上記のtransform_imageは並列化は行われておりますが、SIMDによる高速化は行われておりません。これをジェネリックに行うというのは現状としてなかなか厳しいのですが、Boost.SIMDの登場によってある程度の希望の光は見えてくるのではないかと思っています。

追記:
  • (2011/09/16)コードをコンパイルが通るように若干の修正。ucharを暗黙的に使うのではなく明示的に指定するようにした
  • (2011/09/17)記事を書いていて初めて知ったんですけど、ptr<T>(y)cv::Mat_<T>だとoperator[]でオーバーロードされていたんですね。恐らくこれを用いることがOpenCV側の意図しているところだろうと判断し、上の式を書き換えました。

2011/06/26

boost.gilを利用して透過画像を作る

対象の画像から、特定の色の箇所だけを透明にした透過画像を作る

こういった課題に一ヶ月近くかかって出来なかったとかいう話を聞いて、流石にそれはかかり過ぎだろうと脊髄反射で言ってしまったわけですけど、それじゃあ自分だったらどうだろうとか後で思ってちょっとやってみることにしました。好き勝手言って出来なかったとか恥ずかしすぎですから、やっぱりそこらへんは実際にやってみる責任みたいなものは感じているわけです。というわけでboost.gilを使って書いてみた結果が以下。
#include <boost/gil/gil_all.hpp>
#include <boost/gil/extension/io/png_io.hpp>

using namespace boost::gil;

template<typename Pixel>
struct transparent_functor {
public:
    explicit transparent_functor(Pixel bg_pixel): bg_color_(bg_pixel) {};
    Pixel operator()(const Pixel& src) {
        if(src == bg_color_) {
            Pixel dst = src;
            get_color(dst, alpha_t()) = 0;
            return dst;
        } else {
            return src;
        }
    }
private:
    Pixel bg_color_;
};

int main() {
    const char* filename = "src.png";
    const rgba8_pixel_t background_color(0, 255, 0, 255);

    rgba8_image_t src_image;
    png_read_image(filename, src_image);
    rgba8_image_t dst_image(src_image.dimensions());

    transform_pixels(
        const_view(src_image),
        view(dst_image),
        transparent_functor<rgba8_pixel_t>(background_color));
    
    png_write_view("dst.png", view(dst_image));

    return 0;
}
結果としてはこんな感じです。上が元の画像で、下が結果の画像。正常に抜き出されていることが分かります:
余談
  • プログラムより文章を紡ぎ出すのに時間がかかって、改めて自分の文章力の無さにうんざりしています
  • というか最近暑い!自分は寝たいのに梅雨ですごい蒸し暑いから寝付けず気になってこんな不毛なことやっちゃってるわけです。今度こそ寝ます!!!

2011/06/02

Thrustから見る、reduceを用いたアルゴリズム実装

"The Great Day of His Wrath" by John Martin
はじめに

世はまさに大並列時代。火を手にした人類が飛躍的な進化を遂げたように、並列化のパラダイムは、今まで到底不可能と思われていた速さで計算を行うことができるようになりました。

ところが、どんな手法にも欠点は存在するもので、実際に実装しようとすると非常に難しい。何故かというと、並列には並列化特有の問題が存在しており、愚直に実装してしまうとCPUより早くなってしまうどころか遅くなってしまうことだってあり得るのです。これを回避するにはGPUの内部構造についてきちんと理解をした上で、実装したいアルゴリズムそれぞれの場合に特化したコーディングを行う必要がある。

しかしよくよく考えるとおかしな話です。私たちが実装したいのはあくまで手法であり、ハードウェアではありません。なぜこのような詳細について把握する必要があるのでしょう。これはきちんとした抽象化がなされていない結果生み出された、言ってみれば妖です。この妖によって余計な手間が生み出され、コーディング量は増大し、余計なバグが生成され、絶望した開発者はうつになり、自殺者は増え、世界は暗雲に包まれるー

そのような混沌の中、ある一筋の光、Thrustが現れました。ThrustはCUDAを抽象化し、C++のパラダイムを用いることで本質にのみ注力できるよう開発されたライブラリです。ユーザはただIteratorに対してアルゴリズムを適用するかの如くdevice_vector<T>と各種アルゴリズムを駆使することで、流れるようなプログラムを組むことが可能となります。このような抽象を用いることで、ユーザは詳細な内部構造について頭を悩ませる必要が無くなりました。誰が書いているのか分からないから使いたくない?ThrustはNVIDIAに所属している開発者Jared HoberockNathan Bell氏によって書かれています。2人とも並列化のプロフェッショナルなので、普通の人が愚直に実装するよりも大抵の場合効率的でしょう。

さて、Thrustには並列化を行うための多種多様なアルゴリズムが存在しています。そして、Thrustはオープンソースです。これはつまり、このソースコードを読めば並列化のプロがどのようにして各種アルゴリズムの並列化を実装しているのかが分かるということです。

Reductions

ということで、最近はThrustのソースコードをちょくちょく読んでいるところです。まだ読み始めた最中なのですが、特に感動したのはReductionsの項でした。

数々あるSTLのアルゴリズムを普通に実装しようとすると、一つ一つのアルゴリズムすべてに対して、コアレッシングなどのGPGPU特有の問題を回避したコードを記述しなければならず、非常に面倒です。Thrustはこの問題をreduce関数によって解決しました。この関数は並列化が可能なので、これを用いて書かれた関数は自動的に並列化されます。つまり、Thrustはいわば『全から一を返す』アルゴリズムすべてをreduceを用いて記述することによって、冗長な記述を回避しているのです。

このreduceを用いた並列化の実装について簡単に説明していくことが、今回の記事の目的です。reduceを初めて聞いた方は前回の記事『並列環境におけるreduceとscanアルゴリズム』を参照してください。

ここで、本来のThrustはC++によって記述しているのですが、そのままC++で書くと非常に冗長で解り辛くなってしまうので、今回は本質のみを抽出するためHaskellを用いて説明します。あまりHaskellに慣れていないので不適切な書き方等あるかもしれませんが、そのへんはご指摘頂けると幸いです。また、今回のreduceにはfoldr関数を代わりに用いています。分かると思いますが一応。

実装
  • max_element, min_element, minmax_element
その名の通りリストの中の最大値、最小値、最大と最小値のタプルを返します。
*Main> max_element [1,3,2,4,3,1]
4
*Main> min_element [1,3,2,4,3,1]
1
*Main> minmax_element [1,3,2,4,3,1]
(1,4)
ここらへんはまぁ普通に分かります:
max_element :: Ord a => [a] -> a
max_element list = foldr max (head list) list

min_element :: Ord a => [a] -> a
min_element list = foldr min (head list) list

minmax_element :: Ord a => [a] -> (a, a)
minmax_element list = foldr minmax_func (first, first) $ zip list list where
    first = head list
    minmax_func (min1, max1) (min2, max2) = (min min1 min2, max max1 max2)

  • all_of, any_of, none_of
all_of, any_of, none_of関数は対象のリストと真偽値を判定する関数を引数に取り、
  • すべて当てはまっている
  • 一つ以上当てはまっている
  • すべて当てはまっていない
場合にはTrueを返す関数です。pythonではall(), any(), C++ではまんまのやつがありますね。
*Main> all_of (\x -> x > 3) [1,3,2,4,3,1]
False
*Main> any_of (\x -> x > 3) [1,3,2,4,3,1]
True
*Main> none_of (\x -> x > 3) [1,3,2,4,3,1]
False
これも実装的にはらくちん:
all_of :: (a -> Bool) -> [a] -> Bool
all_of binary_pred list = foldr (&&) True $ map binary_pred list

any_of :: (a -> Bool) -> [a] -> Bool
any_of binary_pred list = foldr (||) False $ map binary_pred list

none_of :: (a -> Bool) -> [a] -> Bool
none_of binary_pred list = all_of (not . binary_pred) list
関数合成を用いてエレガントに解決。
  • inner_product, transform_reduce
inner_productは2つのリストに二項演算子を作用させてから、その結果からなるリストをreduceする関数です。transform_reduceはリストをいったんユニタリー関数を用いて変形させてから、reduceを実行する関数です。
*Main> inner_product (*) (+) 0 [0,1,2] [3,4,5]
14 -- = 0*3 + 1*4 + 2*5

*Main> transform_reduce (\x -> x*2) (+) 0 [1,2,3]
12 -- = 1*2 + 2*2 + 3*2
C++だといろいろ冗長に書かないといけないですけど、Haskellだったら余裕です:
inner_product :: (a -> b -> c) -> (c -> c -> c) -> c -> [a] -> [b] -> c
inner_product binary_op1 binary_op2 init list1 list2 =
    foldr binary_op2 init $ map operate $ zip list1 list2 where
        operate (x, y) = binary_op1 x y

transform_reduce :: (a -> b) -> (b -> b -> b) -> b -> [a] -> b
transform_reduce unary_op binary_op init list =
    foldr binary_op init $ map unary_op list
  • count_if, count
count_ifは条件に合致している要素数を返す関数で、countは指定した値と同じ要素の数を返す関数です。
*Main> count_if (\x -> x < 3) [1,2,3,4,5]
2
*Main> count 3 [1,3,2,2,3]
2
count_if :: (a -> Bool) -> [a] -> Int
count_if binary_pred list = foldr (+) 0 count_list where
    count_list = map transform_func list where
        transform_func x = if binary_pred x then 1 else 0

count :: Eq a => a -> [a] -> Int
count value list = count_if (== value) list
ThrustではTrueだったら1, Falseだったら0となるリストを作成して、それを足していく手法をとっていました。
countcount_ifが思いつけば楽勝でしょう。
  • find_if, find_if_not
find_ifはリストの中で条件に合致している『一番最初の要素』を示すイテレータを返します。find_if_notは逆で、条件に合致していない『一番最初の要素』を示すイテレータを返します。今回は単純に要素のラベル番号を返すようにしました。なかったら最後のラベル+1が帰ってきます。
*Main> find_if (\x -> x > 3) [1,3,2,5,4]
3
*Main> find_if (\x -> x > 7) [1,3,2,5,4]
5
*Main> find_if_not (\x -> x > 3) [1,3,2,5,4]
0
これは微妙に入り組んでいます:
find_if :: (a -> Bool) -> [a] -> Int
find_if binary_pred list = snd result where
    result = foldr find (False, length list) tuple_list where
        find (b1, i1) (b2, i2)
            | b1 && b2  = (True, min i1 i2)
            | b1        = (b1, i1)
            | b2        = (b2, i2)
            | otherwise = (False, max i1 i2)
        tuple_list = zip (map binary_pred list) [0..]

find_if_not :: (a -> Bool) -> [a] -> Int
find_if_not binary_pred list = find_if (not . binary_pred) list
ただ、find_ifはちょっと本家と違います。インデックスが小さい項が常に左の引数となるため省略してるんだとは思いますけど、対称性を満たしていないのがちょっと気持ち悪いので、ここでは交換則を満たすように関数を変形しています。

実際の実装と課題
ここではhaskellを用いて実装しましたが、もちろん実際の実装は異なっており、zipzip_iterator, maptransform_iterator, タプルはtupleを用いて実装しています。これらのイテレータの評価は遅延的に行われるので、複数のメモリアクセスが発生せず、アルゴリズムの高速化に貢献します。

これらのfancy iteratorを使用した戦略は非常に賢いとは思いますが、同時に欠点もあります。複数のイテレータを大量に組み合わせるために、通常のSTL algorithmのようにbeginendを使用してしまうと、両方に対してfancy iteratorを組み合わせなければならないため、2倍の手間がかかってしまうのです。

これらの解決案としてはboost::rangeのようなRange構造を実装することです。これをパイプ演算子で繋げていくような形をとっていけば、明快で分かりやすく、速度も十分保証されたプログラムを記述できることでしょう。

2011/05/18

Wiresharkを用いたHTMLの初歩的なスクレイピング

前回はぽんとスクリプトを上げて「これで画像がダウンロードできますよ」とやったわけだけど、もちろん実際にGoogle Art Projectの資料が上げられているわけでもないので、きちんとHTMLやJavascriptのソースを見ながら読解していくことになる。

簡単な動作機構だったら単にHTMLのソース見るだけで良いのだけど、Google Art Projectのような複雑な機構だとそうもいかない。行数が多いと面倒だし大抵の場合難読化されてたりで一筋縄ではいかないからだ。そこで、今回はパケット解析というもうひとつの武器を利用することで内部構造を別の側面から理解することにした。思考の流れを書き綴っていくので、HTMLのスクレイピングをやってみたい方にとって何か参考になれば幸いです。

目標: 高画質な絵画をGoogle Art Projectを利用して手に入れる

まずGoogle Art Projectのサイトへアクセス。絵画ごとに固有のURLが割り当てられており、このURLを解析すれば絵画を入手できると判断。見るからにソースコードからの解析は面倒くさそうだったので、パケット解析ソフトウェアWiresharkを用いて解析を行った。
本質のみに注力するためhttpプロトコルのみキャプチャ。適当なURLにアクセスし、ズームを1回行い、パケットキャプチャを中断。解析を開始。
画像本体らしきURLにアクセスしているパケットを発見。複数のアクセスがあるってことはたぶん画像は複数に分割されていてそれを読み込んでいるんだろう。調べると/unique-id=xi-yj-zkの形でアクセスしていたので、対応するxy座標とズーム値zによって対応する画素値にアクセスすることができると推測。試しにURLにアクセスしてみると、問題なくダウンロードができた。
また、x,yの値を変更してのアクセスを行った結果も問題なくアクセスできた。ただ、どうやら範囲外のxy値にアクセスすると404が返されるらしい。当たり前といえば当たり前。アクセス禁止などのペナルティはないっぽいので、(ちょっと礼儀悪いけど)404が返されたらそれが範囲外と解釈することにする。

一旦まとめてみる。画像は分割されており、これらのアクセスはなんかよく分からないunique-idという、おそらく絵画について表しているパラメータとx,y,z座標の2つだけでダウンロードができる。ついでに、リファラー, cookie, 認証などの面倒な作業をせずとも直接のダウンロードが許されていることも分かる。そこらへんはGoogleさん寛容なんだなぁと思い、まぁAPIを提供してるくらいだからなぁ、とかいろいろ考える。

他の画像に対してのホストを確認してみると、どうやら[lh3〜lh6]までの複数のホストへとアクセスしているらしい。このホストアクセスがランダムか、それとも固有のホストを呼び出さなければならないのか確認してみたかったので、試しにホストだけを変更して、その他のパラメータは固定したままでのアクセスを試みる。結果としては問題なくダウンロードできた。たぶん負荷を分散するという単純な理由から、ランダムにJavascript側で割り振っているんだろう。ここで初めてHTMLのソースを閲覧。"cmn/js/content.js"のソースを開き(難読化はされてないようだ)"ggpht"を検索。
リストに入れているところからすると、画像へのアクセスはたぶんこのリストの中だけに限られているんじゃないかなと思う。試しにlh7へアクセス。404が正常に返された。的中。この指針で間違いないので次へ進む。

次に気になるのはunique-idだ。一体何処から仕入れているのか知らないと全く手のつけようがない。考えられるのは2つで、
  • アクセス毎に固有のunique-idを発行し、一定期間のみアクセスできるようにしている
  • HTMLかどこかに参照しやすいように書かれており、それを抜き出してアクセスする
という発想だ。自分は前者を疑っていたので、それっぽいパケットがあるかどうか監視。結果としてはまったく存在していなかった。というと後者かなと思い、対象のHTMLからunique-id(今回の場合だと"vtzd432xqzOpi_3X8JAJ_buly36QKI0n9zGeeWNgBcwsYJTsAKK5mbM9Pgg")を検索。
ビンゴ!これで駒はすべて揃った。まとめに入る。対象の絵画をダウンロードするためには、
  1. 取得したい絵画のアドレスへアクセス
  2. <div id="microscope" data-microId="unique-id">となっている項を取得、unique-idを得る
  3. http://lh3.ggpht.com/ - http://lh6.ggpht.com/のいづれかにアクセス。
    http://lh3.ggpht.com/unique-id=xi-yj-zk のような形で画像を取得
  4. 取得した複数の画像を繋ぎ合わせる
後は非常に簡単でただこの単純なアルゴリズムに従って書き下していくだけ。その産物がこいつ。こんなに早く仕上がるってことは、たぶんGoogleさんは本格的にダウンロードを禁止したいわけじゃないんだろう。

スクレイピングとしては楽な部類で、普通だともうちょっと複雑な認証をかましてくるので自動化しにくい。Captcha入ると流石に無理だけど、おそらく現在の文字認識技術をきちんと応用すれば解けるんじゃないかと思っている。

余談

  • こういう解析は楽しい。どんな感じの楽しさかっていうと、与えられたパズルを解いていく感覚にちょっと近い
  • 自分はだいたい1時間くらいで解いたけど、早い人はたぶんもっと早いんだろうなって思う。まだまだ精進が足りない

2011/05/16

Google Art Projectを利用して高画質の絵画を手に入れる

"The Starry Night" by Vincent van Gogh
2011年2月2日、GoogleさんはGoogle Art Projectというサイトをリリースしました。どういうサイトかっていうとMoMAニューヨーク近代美術館Tate Britainなど、世界中の美術館にある有名な絵画を渡り歩くことができるという趣旨のサイトで、誰もが一度は見たことがある絵画がー家に居ながらー非常にリアリスティックな解像度で見ることができる。恐ろしい時代になったもんです。

ところがこのサイト、高解像度で見られるのは非常にいいことなのですが、肝心のダウンロードができない。せっかく高解像度なんですから保存できてもいいはずなのに、だけどできない。Google Mapなんかは常に最新の情報に更新しなければならないので、ダウンロードに制限をかけているのは合理性があるんですけど、絵画とか全く更新する必要がないでしょう。著作権も切れてるのに。よく分からないです。

ということで、なければ自分でなんとかしようという精神で、1時間くらいでちゃっちゃとPythonでスクリプト組んでダウンロードするようにしてみました。即興で組んだのでいろいろ粗い面はありますけど、そこら辺は勘弁してください。

#!/usr/bin/env python
#-*- coding: utf-8 -*-

import sys
import re
import urllib2
import random
from PIL import Image

def usage():
    print "%s [URL]" % sys.argv[0]
    return 1

def get_id(url):
    response = urllib2.urlopen(url)
    if response.code != 200:
        raise TypeError
    data = response.read()
    return re.search(
        r'<div id="microscope" data-microId="(.+)">', data).group(1)

def get_filename(x, y):
    return "%i_%i.jpg" % (x, y)

def download_image(target_id, x, y, z):
    urllist = [
        "http://lh3.ggpht.com/",
        "http://lh4.ggpht.com/",
        "http://lh5.ggpht.com/",
        "http://lh6.ggpht.com/"
    ]
    base_url = random.choice(urllist)
    url = "%s%s=x%i-y%i-z%i" % (base_url, target_id, x, y, z)

    try:
        response = urllib2.urlopen(url)
    except urllib2.HTTPError:
        return False
    with file(get_filename(x, y), "wb") as fp:
        fp.write(response.read())
    return True

def download_and_get_max_x(target_id, x, z):
    result = download_image(target_id, x, 0, z)
    if result:
        return download_and_get_max_x(target_id, x+1, z)
    else:
        return x

def download_and_get_max_y(target_id, y, z):
    result = download_image(target_id, 0, y, z)
    if result:
        return download_and_get_max_y(target_id, y+1, z)
    else:
        return y

def combine_images(name, max_x, max_y):
    x_size = 512
    y_size = 512

    result = Image.new("RGB", (max_x*x_size, max_y*y_size))
    for y in range(max_y):
        for x in range(max_x):
            image = Image.open(get_filename(x, y))
            result.paste(image, (x*x_size, y*y_size))
    result.save(name)

def main():
    if len(sys.argv) == 1:
        return usage()
    depth = 3
    target_addr = sys.argv[1]
    target_id = get_id(target_addr)
    max_x = download_and_get_max_x(target_id, 0, depth)
    max_y = download_and_get_max_y(target_id, 1, depth)
    for y in range(1, max_y):
        for x in range(1, max_x):
            download_image(target_id, x, y, depth)
    combine_images("result.png", max_x, max_y)

if __name__ == "__main__":
    sys.exit(main())

使い方は簡単で、
$ python artproject.py http://www.googleartproject.com/museums/tate/mariana-248
のようにURLを指定してあげると勝手に取得して結合してくれます。こんな感じで:
"Mariana" by John Everett Millais
あぁそれにしてもお美しい……巷ではオフィーリアちゃんが有名だけど、やっぱりマリアナさんのほうが綺麗だよ。絶対。

余談
  • もともとの動機としては高解像度な絵画の壁紙が欲しくて、いろいろと探し回ったわけですが、どうもGoogle Art Projectしか高解像度の絵画が載っていないので仕方なくといった次第です。
  • 利用はどうやらGoogle's Terms of Serviceに準じているようです。ざっと見した感じだとダウンロードを禁止する条項はないですし著作権も切れているので全く問題ないように思えるんですが、もし警告とかきたらチキンですから遠慮無く取り下げます。ご了承ください。
  • このネタを題材に時間があればHTMLのスクレイピング、パケット解析についての入門記事を書いてみたいです。
  • なんだかんだ言ってちゃんと実物見たほうが綺麗。ミレイの作品は以前東京に行ったときにBunkamuraで見ました。Bunkamuraはそういう催し物よくやっていて、そこらへんが東京羨ましかったり